TwtterのHARLEQUIN_JP読んでますか? あまりの名ゼリフの宝庫加減に、ときに爆笑、ときに感涙で、まったく飽きがきません。
たとえば、お詫びのバリエーション「僕は君との関係が深いものになったことに困惑していたんだ。だから、あえて距離をおこうとした。君を傷つけて本当にすまなかった『運命の甘美ないたずら』ハーレクイン1/20刊 #owabinohi」
「そうだな、きみの言うとおりだ。すまなかった。返す言葉もないよ。だけど、きみを求めないようにするには、死ぬ以外にない。そんな気がするくらいなんだ。でも、あいにくぼくはこのとおり生きている『雇われた夫』ハーレクイン1/1刊 #owabinohi」
「すまない。だが、君と出会うまで、僕がそれなりの経験を重ねてきたことは承知しているはずだ『運命の甘美ないたずら』ハーレクイン1/20刊 #owabinohi」……それなりの経験って。HARLEQUIN_Jの中の人はグッド・センスだと思います。
長い前振りとなりましたが、かように名ゼリフも読みどころのロマンス小説。わけても人気作家(キャッチフレーズは、「ニューヨーク・タイムズ・ベストセリング・オーサー」です。サンドラ・ブラウンのホームページhttp://translate.google.co.jp/translate?hl=ja&langpair=en|ja&u=http://sandrabrown.net/blog/page/2/より)ともなれば、連発必至です。
1904年、ノースカロライナ。幼くてして聖職者だった親を亡くし、親切な主教夫妻に引き取られたローレンは、清くつつましい美しい娘に成長しますが、牧師のウィリアムからしつこく迫られ、逃げ出すように、かつて遊びにおいでと声をかけてくれた、主教の古い友人で大牧場主のベンを頼り、テキサスに渡ります。しかし不幸なことに、その日の朝、ベンは心臓の病で急逝していました。残されたベンの妻オリヴィアは冷たく、息子のジャレドは飲んだくれの放蕩者。しかも、ローレンにベンの愛人疑惑まで掛ける始末。しかし、ノースカロライナに戻れば、ウィリアムが卑怯な手を使ってローレンをものにしようと待ち構えており、他に行くあてもなく途方に暮れる彼女に、オリヴィアが驚愕の提案を持ちかけます。それは、ジャレドとの偽装結婚。2年間という期限付きのものでした。
もともとベンは、30歳になってもなかなか跡取りとして落ち着かない息子を心配し、旅先で見込んだローレンを一緒に住まわせることで二人に気持ちが通わせ、いずれジャレドの妻に、と計画していたのです。ベンの農場は、多角経営で銀行も所有しており、近く鉄道を町に引こうとしていました。経営に意欲を見せるオリヴィアは、発電所設置に反対して町の有力者たちの反感を買うジャレドの信頼を回復するには、結婚はよい手段だと、ジャレドとローレンをなかば脅すように説得します。
結婚が決まった日の翌朝、ローレンに強引に口づけしたジャレドは「親父のお古なんかを相手にしてたまるか!」と蔑むように笑い、ローレンはジャレドに平手を食らわせます。一瞬前の、お互いに特別に思えたキスの感触を打ち消すように。
健康に日焼けした肌に輝く琥珀の瞳をした鋼のように鍛えられた身体のジャレドは、テキサスを体現したような力強く荒々しいハンサム。対するローレンは、美徳を絵に描いたような、黒い巻き毛に灰色の瞳をした清楚な美女。周囲から、お似合いの夫婦だと褒めそやされますが、その実態は仮面夫婦。「誑かされないぞ」と虚勢を貼るジャレドに、「大嫌い」と扉を閉ざすローレンです。それでも、一緒に過ごす時間が重なるうちに、日ごと互いへの想いは募り……。
放蕩者のふれこみのジャレドですが、ハーバード卒の意外とインテリ。発電所設置に反対するのにもちゃんと理由があり、発電所のために近隣の小農場に水が流れなくなることを懸念してだったりします。ひねくれた性格になったのも、ベンとオリヴィアの折り合いが悪かったせいなのです。親から与えられた妻に対して、反発しか感じなかったジャレドですが、ローレンの無垢さと意外な強さに触れ、次第に大人の男として成長していくのも本作の見どころ。
この著者ですから、テキサス嫁取り物語に見えても、決して牧歌的な単純なものには収まらず、上記の鉄道工事や先住民、メキシコ移民との反目や協調などの社会問題を背景に、家族の憎悪と愛情を丹念に織り込んでいます。
ほかにも見逃せないのが、女傑オリヴィアのイジワル姑ぶり。ジャレドとローレンがついに結ばれた朝の心中など「白雪姫」に出てくるお妃のようです。「なんといまいましい。自分の息子ともあろう者が、あんな温室育ちの花などになぜ屈してしまったのか」……ちなみにオリヴィアには、長年の愛人がいますが、欲しいときに呼びつけて、前戯も後戯もなく、終わったらさっさと帰らせるというS系彼女の匂いがぷんぷん。彼女の言動は物語の流れに、実は深くかかわってくるので、サドッ気を堪能しつつ、ご注目いただきたいです。
さて、本書のほか、今月は、同じサンドラ・ブラウンの『クリスマス・イン・ラヴ』と『スターライト・デスティニー』という、著者デビュー初期の3作品が、まとめて集英社文庫から刊行で、サンドラ・ブラウン祭りとなっております。最近のブラウン作品も、円熟味の増した流石の筆ですが、初期作品は、現在よりもロマンス度が高く、さらに今に繋がる上記にも書きました社会問題や家族の愛憎などの深い味わいも盛り込んでいるので、かなり上質の仕上がりです。まだサンドラ・ブラウンを読んだことのない読者、あるいはロマンス初心者にこそ、入門書として手にとってほしいですね。☆☆☆☆★
甘いキス度☆☆☆☆
イジワル姑度☆☆☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |