面白いのにもいろいろある。衝撃的にガツンとくるやつ。じんわりウフフと楽しめるやつ。柴田宵曲(しばたしょうきょく)は典型的な後者。力の入った作品にちょっと疲れたときに読むと、ピッタリはまります。柴田宵曲(1897~1966)は明治後期から昭和を生きた文筆家。正岡子規,夏目漱石、幸田露伴、芥川龍之介といった当時の文豪たちの作品、さらにはそのこぼれ話に関する知識をはじめとして、まさに博覧強記の人。この人は引き出しをいったいいくつ持っているんだろうという博識ぶりに驚かされます。
さらに特筆したいのは、その文章の見事さ。ひとつの話題から、そういえばこんな話が…、と読んでいるこちらが次第に気持ち良くなってくるような筆の運びで、からん・ころんと展開してゆく、その名人ぶりは、まさに柴田宵曲ならではの魅力。そこには、妙に押し付けがましいようなところもまったくなく、あくまで淡々としていて、なんとも穏やか。つまり、実に上品な名文なんですね。
【随筆】を辞書で引いてみると「心に浮かんだ事、見聞きした事などを筆にまかせて書いた文章」とあり、柴田宵曲の文章は、まさに典型的な随筆なのだと納得。ただし、筆のまかせ方は、まさにモノが違うと言わんばかりに(と声高な様子ではなく、あくまで淡々とはじめて、淡々と終わるのが柴田宵曲流なのですが)、自然で自在。
ゴールデンウィーク明けで、ちょっと疲れ気味の人にもおすすめです。
レビュワーは、これもまた自在な筆の運びでおなじみの小玉節郎さんです。