クトゥルー神話は、アメリカの怪奇作家ラヴクラフトの書いた小説世界をもとに、作家仲間がオリジナルの邪神や魔術書などの設定を作り、それをお互いの作品で共有するという遊び(いわゆるシェアワールド)からスタートした。クトゥルー神話は、キャラクターの名前や幾つかの設定があるだけなので、複数の作品に同じ邪神が登場しても矛盾することがなく、こうしたアバウトさもあって多く作家を魅了。今では本格的なホラー小説だけでなく、コミックやライトノベルなどもクトゥルー神話の設定を利用している。
『萌え萌えクトゥルー神話事典』は、クトゥルー神話に登場する邪神や魔物を萌えキャラクターで擬人化して紹介する異色の事典。萌え絵と邪神の組み合わせは一見するとミスマッチに思えるが、クトゥルー神話の邪神には“触手”を持つモノも多く、アダルトアニメやアダルトゲームには、美女が触手を持った魔物に陵辱される“触手もの”と呼ばれるジャンルがあることを考えれば、実は萌えとクトゥルー神話の親和性は高いのかもしれない。確かに本書を見た時の方が、あのお堅いPHP研究所が『「クトゥルフ神話」がよくわかる本』を刊行したと知ったときよりも驚きは少なかった。
といっても、クトゥルー神話ファンからすれば、どうしてもキワモノめいて見えてしまうかもしれない。だが実際に邪神の紹介を読んでみると、驚くほど正統的。萌えキャラのカラーイラストが多用されていることをのぞけば、本当に真っ当なクトゥルー神話事典なのだ。
必要不可欠な情報を的確にセレクトしたところは、多くのクトゥルー本を作ってきた監修者・森瀬繚の功績も大きいのではないだろうか。各項目には、その邪神が登場する作品が必ず書かれているのでブックガイドとしても役立つし、小さいながらも正統的なイラストも描かれているので、萌え系以外のクトゥルー神話に進んでも戸惑うことがないよう配慮もされている。欄外には「ジュブ=ニグラスに登場する『黒き仔山羊』は、ぶっちゃけTRPGで有名になった設定」といったマニアックな記述もあるので、筋金入りのマニアも思わずニヤリとしてしまうのではないだろうか。
ただ、やはり入門書なので、同じようなガイドブックを持っていれば、萌え絵が好きとか、贔屓のイラストレーターが参加しているとか、クトゥルーものならすべて集めるコレクターであるとかでなければ、手をのばしにくいのも事実。逆に萌え絵に引いてしまう読者がいることも考慮すれば、コンセプトの面白さは認めつつも☆☆☆。
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