人間存在を宇宙論的視野で見直し、日常的時間軸の裏に「惑星思考(ブラネタリティ)」を読み取る「ポスト・アポカリプス(黙示録後)文学」が登場している。コーマック・マッカーシーによる世界の終末を描く小説『ザ・ロード』がその範疇に入る。ここでは終末じたいがメタファーで、例えば「P.K.ディック世代」とも言うべき日本演劇の八十年代小劇場「核戦争後」劇ブームに比して、暗く、重い。『ザ・ロード』は小説としては古めかしく、運び方ももう少し何とかならんかなあと思うが、冷戦期アメリカの潜在的不安を反映した数十年にわたるSFムーブメントが、完全に別な潮流に変わったことが、はっきりと確認できる。
結城登美雄『東北を歩く』は、この国が独特の位置を持つ「アジア」の一員であるという、私たちが失いがちな実感を、まざまざと示してくれる。
そして最後に、アメリカと日本の関係というテーマを越えて、「『他者』の立場を借りて表現すること」という角度から「フィクション」の本質に迫った、宇沢美子『ハシムラ東郷』が圧巻である。